UAIアクセシビリティセミナー(2007年5月31日)
『企業サイトにおけるアクセシビリティの実践』
植木 真 Makoto Ueki,
<makoto.ueki@gamil.com>
自己紹介: 植木 真(株式会社インフォアクシア)
株式会社インフォアクシア
- Webアクセシビリティ コンサルタントとして、主に大手企業サイトをサポート
- サイト診断、ガイドライン作成、教育・研修、ツール開発等
研究会 / ワーキンググループ等
- ITRC UAI 副査
- JIS X 8341-3関連ワーキンググループ 委員
- WG 2:JIS X 8341-3 と W3C WCAG 2.0 との協調
- WG 3:JIS X 8341-シリーズの普及、評価方法検討
- W3C / WAI WCAG ワーキンググループ
- 日本ウェブ協会(W2C)設立発起人および理事
この講演のアウトライン
書籍 第3章「大企業におけるアクセシビリティの実装 」の概要をベースにお話します。
- アクセシビリティ・チームを組織しての実践
- 1. 専門部署の必要性
- 2. 社内に提供すべきもの
- 3. 社内で果たすべき役割
- 4. 実践ノウハウ
- 日本の大手企業へのコンサルティング事情
はじめに: 第3章『大企業におけるアクセシビリティの実装』
大企業サイトでアクセシブルなWebサイトを運営していくノウハウを解説。
第3章の著者紹介
- マーク・アーバン Mark Urban
- ITおよび障害者関連問題のコンサルタント。ノースカロライナ州知事諮問委員会の委員長。ICDRI(International Center for Disability Resources)のメンバーでもある。
- マイケル・R・バークス Michael R. Burks
- ICDRI(International Center for Disability Resources)のWebマスター。
第3章のアウトライン (1)
アクセシビリティ・チーム(Accessibility Organization)という専門部署を組織しての実践法を紹介。
- 専門部署の必要性
- 企業内で組織する理由
- チームの構成
- 与えられるべき権限
- 業務範囲、ゴール、および役割
第3章のアウトライン (2)
- 社内に提供すべきもの
- アクセシビリティの"気づき"
- トレーニング
- 事例集データベース(Knowledge Base)
- フィードバック
第3章のアウトライン (3)
- 社内で果たす役割
- 品質保証
- マイルストーン
- 技術的なモニタリング
- 客観的な定期検査
- 顧客(ユーザー)サポート
- 法的事項への対応
- 標準規格への準拠
第3章のアウトライン (4)
- 実践ノウハウ
- 実装へのアプローチ
- 初期評価(現状把握)
- 実装プラン
- 実践するための12ステップ
1:専門部署の必要性
なぜアクセシビリティ・チームが必要なのか
1-1. 企業内で組織する理由
多くの企業でよく見られるアプローチ
- 障害者が問題を指摘したときにだけプロジェクトを組む
- 既存のサービスにアクセシビリティを付加
- その場しのぎや必要に応じてのみアクセシビリティを提供
こういったアプローチに潜む2つの危険
- 既存の製品やサービスにアクセシビリティを付加するには、非常にコストがかかる
- アクセシビリティに関する知識 / ノウハウが、特定の人(少人数)に集約される
1-2. チームの構成
ポイントは、企業内で部署の枠を超えて横断的に活動できること
- アクセシビリティへの知識と気づきを最大化するため
- その企業内における情報のリソースとなる存在になるべき
- チームのマネジメントは周到に体系化する必要がある
メンバー構成のポイント
- 利害関係のある部署のメンバー、そしてWebアクセシビリティ分野のエキスパート
- メンバーのほとんどは、アクセシビリティ・チームの専属である必要はない
- 現場にチームのメンバーがいれば、日常業務の中で本人 / 社内のアクセシビリティへの "気づき" が高まる
1-2. (参考)モデルとなるチームの構造
理想的なのは、経営者直属の組織とすること
- 日本企業で近いのは、富士通(?) 米国なら、ヒューレットパッカード(?)
- 米国の州政府にも、似たような組織体系を持っているケースがある
1-3. 与えられるべき権限
アクセシブルなWeb技術の実装に必要な権限
- 品質基準を定め、使用するツールの決定をし、しかるべきプロセスの計画立案ができること
- 加えて、以下のような権限も必要:
- 全社 / 各部署の懸案事項を定義して明確にする
- 「アメ」と「ムチ」の両方を使える
- 部署内 / 部署間の調整、時には強権発動できる
理想は、やはり企業の最上層部からの権限を与えること
- 企業の経営陣が、Webアクセシビリティの実践を確約
- アクセシビリティ・チームの予算確保も重要
1-4. 業務範囲、ゴール、および役割
アクセシビリティ・チームが追うべき責任
- アクセシビリティの「気づき」を喚起する
- 問題とその解決策を共有するため、フィードバックを促す
- 品質保証のための手順を実行する
- Webアクセシビリティのサポートを提供する
- アクセシビリティに関する法的事項に対処する
- 組織内のアクセシビリティ・ガイドラインを策定する
- アクセシビリティ関連の公的な仕事に、企業を代表して参画する
2:社内に提供すべきもの
アクセシビリティ・チームがもたらすもの
2-1. アクセシビリティの "気づき"
アクセシビリティの気づきを喚起することが最優先事項
- 共通しているのは、単に「アクセシビリティ」を知らなかっただけ
- 多くの人たちは、そのような問題が存在することすら知らない
教育によって "気づき" の機会を与え、現場の意識を変えさせる
- まず、アクセシビリティ ガイドラインの要件を理解させる
- 後に、新しいテクニックの開発にも取り掛かるかもしれない
2-2. トレーニング
アクセシビリティの気づきを喚起することが最優先事項
- Webアクセシビリティの技術的な側面における基礎を教える
- 関連する法律及びそれが自分達の仕事にどのように適用されるか
役割、階層等に応じたトレーニング内容の検討
- 上層の管理職の人たちは、問題点を理解するために必要なことだけでよい
- 現場レベルには、より詳細な部分まで提供する必要がある
2-3. 事例集データベース(Knowledge Base)
社内外で知識 / ノウハウをシェアするインフラを整備
- データベースにそれまでの問題解決策を蓄積しておく
- 社内には、新しい事例を随時追加していくことを奨励する
- 公開する前には情報の妥当性を保証するようにチェックも必要
- 使い続けてもらうには、入念に設計しなければならない
2-4. フィードバック
懸念事項や問題点を社内で共有する仕組み
- ガイドラインを実装する上で気がついた問題点等を報告してもらう
- 問題点は常に表面化させ、それを調査した上で素早く解決する
- 社内からのフィードバックに対しては、迅速かつ的確に回答することがとても重要
ユーザーからのフィードバックも重要
そのページにどれだけ多くのアクセシビリティ機能が実装されていたとしても、もしページが使いやすくなければ、それはアクセシブルでないのと同然なのだ。(書籍本文より)
3:社内で果たす役割
アクセシビリティ・チームのミッション
3-1. 品質保証
社内における取り組みの品質を監視 / 評価するスキームが不可欠
- マイルストーン
- 技術的なモニタリング
- 客観的な定期検査
3-1-1. 品質保証:マイルストーン
アクセシビリティのマイルストーンを部署ごとに数値化して設定
- アクセシビリティ案件の技術顧問となれる人材を雇用
- アクセシビリティ専任担当者のトレーニング
- 検証手法およびツールの整備
- アクセシビリティ ガイドライン / テンプレートの制作
- 障害関連の専門家、組織、あるいは外部スタッフとの戦略的パートナーシップ締結
3-1-2. 品質保証:技術的なモニタリング
社内基準を満たせているかを全社的にチェックする手法を統一
- チェックリストの作成
- アクセシビリティ診断
- 修正ツールの判定結果
- あるいは、これらの組み合わせ
3-1-3. 品質保証:客観的な定期検査
目標をどこまで達成できているかを明確に把握
- チームが作成したチェックリスト、設定した基準およびマイルストーンで評価
- 評価結果は、アクセシビリティ・チームのデータベースに記録
- 外部に委託すれば、評価自体が社内の政治力や圧力の影響を受けるリスクを軽減
3-2. 顧客(ユーザー)サポート
企業規模が巨大でないかぎりは、アクセシビリティ専任のサポートスタッフを持つことはお奨めできない。(本文より)
情報共有のインフラを整備しておくことが大切
- 常に最新の情報を関係者全員が参照できるようにしておく
- 社内(現場) / 社外(顧客)からのフィードバックにより、新しい問題も把握
3-3. 法的事項への対応
法律関連のエキスパートが少なくとも一人いるのが理想
- Webに適用されるアクセシビリティ関連の法律、条例および政策(例:リハビリテーション法508条)関連を社内に周知徹底
- 社内(現場)での取り組みとの関係性を示した具体的な事例も提示
- チームのスタッフとして、例外の案件等に対処
3-4. 標準規格への準拠
組織がアクセシビリティに関する懸案事項の問題を解決する拠り所にもなるフレームワーク
社外:国内規格あるいは国際規格
- W3C WAI 「WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)」
- 米国 リハビリテーション法508条
- 改正準備作業が進行中。WCAG 2.0と協調する方向へ。
- 日本 JIS X 8341-3(日本工業規格)
4:実践ノウハウ
大企業で実践するためのポイント
4-1. 実装へのアプローチ (1)
最も現実的なのは、フェーズを分けたアプローチ
- Webアクセシビリティのガイドラインを決定する
- ガイドラインを組織全体に告知する
- ガイドラインのサポートとトレーニングの実施を告知する
- 全ての新しいWebベースの技術をガイドラインに従ってアクセシブルにしなければならない期日を定める
- アクセシビリティ・チームのメンバーに自分の所属する部署のWebベースのシステムを分析させる。そして、アクセシブルにするために、まず最初に変更すべき技術はどれかを判断させる
- 重要なWebベースの技術でアクセシブルにしなければならないものがあるかを確認する
- 重要なWebベースの技術でアクセシブルにできないものがあるかを確認する
- アクセシビリティ・チームの各メンバーの所属部署にWeb技術をアクセシブルにしていくフェーズ分けを計画させる
- 第15章で述べているように、アクセシブルでないWebサイトの改修を含めて、アクセシブルな技術の実装に着手する。段階的なアプローチにより、アクセシビリティ・チームのメンバーが公開日までに準備できるようになる。
- 技術的なサポートおよびトレーニングを含めて、あらゆるサポート体制が整っていることを確認する
- 進捗状況を監視して、必要に応じて援助する
4-2. 初期評価(現状把握)
実装段階に入る前に、初期評価を行う必要がある。もし現状が把握できていなければ、どのようにして目標とするところまで達することができるかが分かるはずがないのだ! (本文より)
- 実装に着手する段階で最も重要なのは、最初にまず社内の現状を客観的に分析すること
- 評価結果をもとに、詳細な改修計画のスケジュール案を作成できる
- 社内のリソースで実施してもよいが、外部からの評価を受けたほうが効果的
4-3. 実装プラン
企業内のリソースを最大化するポイント
- 従来のプロセスの中に、アクセシビリティ確保を組み込む
- 既存の "モノ" を改修してアクセシビリティを確保
- 全ての新規プロジェクトを、アクセシビリティ確保を前提にして進める
- 『富士通ウェブ・アクセシビリティ指針』は、富士通社内には存在していない
- デザイン・ガイドラインの中に入れて、既存ガイドラインの改版時にアクセシビリティの要件を追加
4-4. 実践するための12ステップ
- 経営陣のトップから確約を得る
- 責任者を決めて、アクセシブルなWebデザインを実装する権限を持たせる
- アクセシビリティ・チームの目的、およびゴールと業務範囲を明確にする
- 現場スタッフやマネージャー層から構成メンバーを募る
- アクセシビリティ実践の計画を立てる
- 特定のゴールおよびスケジュールを設定する
- 実装に着手する
- 進捗を監視する
- 必要な修正を行う
- フィードバックの仕組みを提供する
- 継続して利用できる中央集約的なリソースを作る
- 進捗状況の監視、新技術紹介、社内の事例収集、そして成果への報奨などのために、定期的に現場の人たちと会合を持つ
5. 日本の大手企業へのコンサルティング事情
インフォアクシア流 Web アクセシビリティ実践論
5-1. サイト診断
サイトの現状を把握することからスタート
- 主要ページを20ページピックアップ
- JIS X 8341-3全項目に独自のチェックポイントを設定
- 各ページ全項目の診断結果を達成率(%)として数値化
- 状況に応じて、ユーザーテストも実施
- ユーザーを観察すると多くの "気づき" が得られる
- ただし、網羅的にサイトの現状を把握するには不向き
5-2. ガイドライン作成
JIS X 8341-3 をベースに独自のガイドラインを作成
- カテゴリ分類、項目の文言をより分かりやすく
- 様々な状況での運用のしやすさを考慮
- 対象コンテンツごとに「必須」「推奨」を変更
- 項目のカテゴリ分類も体制 / ワークフローをベースに
- 各項目の基準をできるだけ具体的に設定
5-3. 教育・研修
全て "制作会社任せ" では品質管理は不可能
- 社内で "正しい理解" や知識 / ノウハウを共有するために:
- 主担当者を中心に、関係者を対象に勉強会や研修を実施
- 事例入りの解説書を作成して、イントラなどで共有
- 特定の担当者個人に依存しないように、例外への対処など事例を随時追加。
- Wiki などを利用するケースもあり
- 運用段階ではメーリングリストも活用して OJT(制作会社含む)
5-4. 事例に見る成功の秘訣 (?)
- 担当者が熱いほど、サイトの出来もいい!
- ランキングが悪いと、鶴の一声が!
- ユーザーテストは、社内を説得する強力な武器!
- リニューアルこそ、最大のチャンス!
- 『木を見て森を見ず』にならない!
6. まとめ
第3章の読みかた:
- さっそく、"アクセシビリティ・チーム" を作るべきか?
- 第3章は、大企業、それも "巨大企業" を想定している
- ただ、そのエッセンスはどんなサイトにも共通
- 第3章で押さえておくべきポイント:
- 主担当者個人ではなく、"全員" で取り組む
- "気づき" の機会を提供する
- 情報やノウハウを共有できる仕組みを考える
- 品質管理の考え方をサイト構築 / 運営に採り入れる
- これからの企業サイト担当者に求められるのは、
『プロジェクト・マネージャー+プロダクト・マネージャー』感覚
Q&A
Any Question? Any Comments?
Thanks :-)
Keep Accessibility in Your Mind.....