ワークショップ開催の経緯
『Webアクセシビリティ~標準準拠でアクセシブルなサイトを構築/管理するための考え方と実践~』は,Webアクセシビリティ(a11y)世界の著名人11人が執筆したバイブル本です.ユーザビリティとa11yの関係,HTML・CSS・PDF・Flash・JavaScriptなどの技術,世界の規格・ガイドライン・法律など,Web a11yに関わるものが理解しておくべきことが詳しく解説されています.
また,W3Cが策定したガイドラインは2008年末にはWCAG 2.0にバージョンアップし,日本の規格であるJIS X 8341-3もこれに対応して2009年に改正版が刊行される予定です.
本ワークショップでは,この本を元に,JISやWCAGの規格策定にも関わっている講演者が,2009年に大変革を迎えるWeb a11yについてお話しをし,会場からの質疑を受け付けたいと思います.
講演者紹介
- ITRCのUAI研究会
- Web a11yに関する重要な論文をしっかり読む.
- 調査・研究に基づいて,Web a11yを議論・推進(リードパスを投げる)する.
- 若手を育てる.
ITRC入会&UAI研究会参加のお誘い
本日のプログラム
- 14:00~14:10
- はじめに(渡辺隆行)
- 14:10~14:40
- Web a11y 2.0のお誘い,『Webアクセシビリティ』1章の紹介(渡辺隆行)
- 14:40~15:20
- 14章最新情報「WCAG 2.0勧告候補 解説」(梅垣正宏)
- 15:40~16:00
- JIS X 8341-3改正の方針(渡辺隆行)
- 16:00~16:40:
- 11章をベースに「Flashのa11y完全解説」(植木真)
- 16:40~17:00
- 質疑応答,自由討論
Web a11y 2.0に進む手がかり
- A: 現状の反省
- — — —
- B: 調査・研究(Research-based Web accessibility)
- C: ガイドライン:WCAG 2.0,JIS X 8341-3など
- D: 教育・普及:『Webアクセシビリティ』など,セミナー
- E: 高齢者や知的障害者を意識
- F: 技術の標準化と進歩
- G: 政策・法令・研究・ユーザ支援がつながったシステム
- ...
手がかりA: 現状の反省
Web a11yを考慮していても,
- WCAG 1.0のレベルに留まっている(例:画像にはalt属性)⇒ WCAG 2.0
- WCAG 1.0やJIS X 8341-3の(必須の)一部をつまみ食い ⇒ WCAG 2.0
- JISに対応したと自己宣言するサイトの対応度? ⇒ WCAG 2.0
- 評価(テスト)ツールでチェックして終わり.本当に使えるの? ⇒ WCAG 2.0
- コンテンツ制作者の負担が大きい
- 日本の支援技術の力不足
- ガイドラインが調査研究に基づいていない
- ...
手がかりB:調査・研究
問題点:ガイドラインさえ調査研究に基づいていない.そこで,
- 調査例:
- 研究例:
- UAI研究会:輪講,NVDA日本語化
- 渡辺研究室:Webの構造化(見出し,リスト,ブロック),画像の代替情報,ダイナミックWeb,動画の音声ガイド,楽しくてアクセシブルなWeb,オーサリングツール,早口合成音声,音声対話
- ...
手がかりC:ガイドライン
- WCAGが2.0にアップデート
- WCAG 1.0の欠点が解消
- JIS X 8341-3もWCAG 2.0にハーモナイズ
- ガイドライン:専門家が議論して重要なポイントを列挙
- ガイドラインを中心に据えて,ユーザテストなどを併用することが大事
(次の話題に移動...)
まとめると:
- ガイドライン(WCAG 2.0,JIS X8341-3)が重要
- 調査・研究ベースにしたい
- 教育も大事
以下,『Webアクセシビリティ』の1章を,特に「Web a11yの構成要素」に焦点を当ててお話します.
『Webアクセシビリティ』:Web a11yのBible
1章:Web a11yを理解する
- 著者:Shawn Henry
- ユーザビリティの専門家.「UI Access」
- W3C WAI Education and Outreach Working Group (EOWG)
ユーザビリティを含む広い意味での「Web a11y」に関して、具体例を交えてまとめている.Web a11yに関わるすべての人に読んで欲しい.
- Web a11y :
- 障害者がWebを知覚、理解、ナビゲーション、インターラクションできる
- 視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、発話障害、認知障害、脳機能障害
- 高齢者,一時的な障害、状況による障害
- ユーザビリティも向上,技術面や財政面でのメリットもある
- 1-1. Web a11yの例:代替テキスト
- 1-2. Web a11yの他の例
- オーディオ・キャプション
- デバイス非依存(キーボードだけでも操作できる)
- 明確で一貫したデザインとナビゲーション
- Webがあらゆる場面(含 公的サービス)で利用されている
- Webなら障害者もアクセスしやすいようにできる
- 企業の社会的責任(CSR)である
a11yに対応したWebにすることで人々の暮らしが改善し、全体として社会に利益をもたらす
- 高齢者(日本!)
- 読み書きが不得手な人、その言語に堪能でない人
- ネットワークが遅い人
- Webの初心者
- 明確で一貫したデザイン、ナビゲーション、リンク
- サーバーサイド・イメージマップにテキストリンク追加
- 新しくブラウザを開く際の事前情報

図 1-8. Web a11yの構成要素 (©W3C)
Web a11yの基本構成要素
- 技術的な構成要素
- Webコンテンツ(文字、画像、フォーム、音、コード、マークアップ)
- 技術仕様(XHTML、CSS、SVG)
- オーサリングツール(Dreamweaver、ホームページ・ビルダー、MS Word、CMS、Blog、Wikiなど)
- 評価(テスト)ツール
- ユーザエージェント(ブラウザ、メディアプレーヤ、支援技術)
- 支援技術(ソフト、ハード)
- 人間面の構成要素
- ツール開発者(ユーザエージェント、支援技術、オーサリングツール、評価ツールの開発者)
- ユーザー
- コンテンツ制作者(制作、運営、ブログにコメントする人)
基本構成要素:代替テキストの例
技術面の例
- 技術仕様:alt属性(img要素とarea要素)
- オーサリングツール:代替テキストの挿入を容易にし、促す
- 評価ツール:代替テキストの有無をチェックし、適切性の判断を助ける
- ユーザーエージェント:人間と機械(ブラウザや支援技術)が代替テキストを利用できるようにする
- 支援技術:たとえば、視覚障害者には音声や点字で代替テキストを提示
基本構成要素:代替テキストの例
人間面の例
- コンテンツ制作者:適切な代替テキストを提供する
- ユーザー:自分が利用しているユーザーエージェントで代替テキストを取得する方法を知っておく
- ツールの開発者:代替テキストを付与、評価、表示する機能をツールに提供する
基本構成要素:見出し要素の例
- コンテンツ制作者:コンテンツの構造を検討し,適切なマークアップ(見出しやリスト等)をつける.
- ユーザーエージェント&支援技術:見出しを利用したナビゲーションができる.
- ユーザー:見出しの意味や,ユーザーエージェントで見出し要素を利用する方法を知っている.
- 評価ツール:コンテンツの構造がマークアップしているかどうかチェックし,適切性の判断を助ける.
1章4節-2. 卵が先か鶏が先か
基本構成要素が相互依存しているので、どの要素がまず a11y機能を実装すべきかと言う「卵が先か鶏が先か」問題が存在している。

図1-10 a11y実装サイクル
1章4節-4. 構成要素とW3C/WAIのガイドライン

図1-12 各構成要素をカバーするWAIのa11yガイドライン
日本にはコンテンツのガイドラインしかない!
- 5-1 サイト開発プロセスの最初からa11yに取り組む
- 手間とコストが減る
- 5-2 問題を理解するところからはじめる
- ガイドラインに飛びつく前に,評価ツールの結果を分析する前に,まず問題点を理解しなさい.障害者がWebを使う様子の基本的なところを勉強しなさい.
- 5-3 障害者を製作プロジェクトに加える
- 問題点を理解する最もよい方法は,障害者と一緒に作業して,彼らがどのようにWebを利用しているか,どのような問題が生じているかを学ぶことである.
- 5-4 a11yとユーザビリティの関係を理解する
- 次ページ
- 5-5 ガイドラインの重要な役割を理解する
- 障害者から学ぶ,ガイドラインを教科書的に使う,障害者で確認.
⇒ 「ガイドライン(WCAG 2.0,JIS X 8341-3)解説」
- 5-6 既存サイトのa11y問題
- 優先順位(影響度,利用度,小改善労力)をつける
1章5節-4 a11yとユーザビリティの関係を理解する
UCD(ユーザ中心設計)から多くを学べる.
- ユーザビリティ:「ある製品が、指定された利用者によって、指定された利用の状況下で、指定された目標を達成するために用いられる際の有効さ、効率及び満足度の度合い」(ISO 9241-11,JIS Z 8521)
- a11y:「指定された利用者」=障害者を含む,「指定された利用状況」=支援技術を含む幅広い利用状況
- ユーザビリティの問題は、能力(障害のあるなし)に関わらず、全てのユーザーに同じ影響を与える。
- 障害者が、障害を持たない人と比べて不利ならば、それはa11y問題である。
両者の区別は,高齢者や認知障害者においてオーバーラップしてくる.
- 6-1. 文字だけにすればよいという思い込み
- 6-2. a11yに対応したサイトは冴えなくてつまらないという思い込み
- 6-3. a11yに対応するのは大変でお金がかかるという思い込み
- 6-4. Web制作者だけが a11yに責任があるという思い込み
- 6-5. 全盲の視覚障害者だけがa11yの対象であるという思い込み
- 6-6. 評価ツールを使えばa11yを判断できて標準に適合しているかどうかもわかるという思い込み
違う!
- 1章7節-1. 技術面の利点
- サイト制作と管理の時間短縮
- サーバーの負荷軽減
- 相互運用性の向上
- 先端技術への準備
- 1章7節-2. 経済的な利点
- 検索エンジンへの最適化
- Webサイトの利用増
- 直接的な経費削減
- 1章7節-3. Web a11yのビジネスケース
- a11y対応:啓蒙的な自己利益(an act of enlightened self-interest)
a11y対応は、他人のためだけではない。
- 誰もがいつか障害を持つ可能性がある。
- 公平性、基本的な権利の確保が重要
- a11y対応の重要性に気付けば、対応しようとするだろう。
- では、どうやってa11yを確保するのか、そこの勉強が大事。
- 価値ある挑戦としてa11yに取り組もう。優秀な人材の投入!
a11yの伝道者になろう!
Web a11y2.0のお誘い
1章の紹介はここで終わって,WCAG 2.0勧告化とJIS X 8341-3改正を機に,Web a11yをバージョンアップさせる話しに戻ります.
- WCAG 2.0(即ち改正版JIS)をベースにすることが重要.
- 「標準準拠」!:(X)HTML&CSS&Script,ブラウザ,ガイドライン
- Web a11y向上には産官学民協調の取り組みが必要.学界でも「Web a11y」をきちんと扱いたい.
Web a11y2.0に向けた取り組み
- 研究上の注意
- WCAG 2.0(改正後のJIS X 8341-3)のLevel AAを使用.つまみ食いをしない.
- 評価ツールの結果だけで判断しない.
- ターゲットユーザーが支援技術を用いてコンテンツを利用できるか確認
- Web a11yの構成要素に注意(支援技術の機能,ユーザーの知識やスキル)
- ...
付録:「JIS X 8341-3改正の方針」発表資料
この発表は,Mindjet Mind Managerで作成したマインドマップを用いました.発表資料として,マップをPDFで印刷した物と,マップのツリー構造をテキスト形式にエクスポートした物を掲載します: