はじめに
この文書の目的は,コミュニケーション学科学生の最大イベントでありもっとも苦労する科目である卒論に取り組むために必要な知識・技法や考え方を説明することです.研究テーマの決め方,研究の取り組み方,論文の書き方を順番に説明します.卒論を主なターゲットにしていますが,ユーザビリティやアクセシビリティ分野をはじめとする一般的な研究にも適用できると思います.
研究テーマの決め方
なべゼミでは,4年次の最初に,下記に示す「卒論(研究)概要」を提出してもらいます.小柴先生の「三つの卵」に習って,本命・対抗・穴馬の3本の卒論概要を提出することを進めています.
- 研究テーマ:
- 研究テーマとは,何を研究するのか,調べたいのか,という研究の主題です.研究テーマを一段落の文章にまとめることで,研究の基盤が固まります.以後の作業は,すべてこの研究テーマから出発します.(研究を進めていく際に研究テーマを修正することも構いませんが,その場合は,新しい研究テーマからもう一度研究概要を組み立て直すべきです.)
- 卒論題目:
- 研究テーマから,論文題目を決めます.
- 研究で扱う問題点(研究の背景・動機):
- なぜそのテーマに取り組むのか,その動機や背景を説明してください.例:世の中にはこれこれの問題点があるから,こういうことがよくわかっていないから,こういう可能性があるから.
- その意義(研究の有用性):
- その研究を進めることが世の中にどのような意義があるのか,どのように有用なのか,を説明してください.例:これこれの問題点を解決する糸口がわかるかもしれない,これこれの問題点を解決する手助けになる,これこれのことがわかる,こう行くことが新たに可能になる.
- 研究の取り組み方(調査研究の手法):
- その研究にどのように取り組むのか,調査をするのか,実験をするのか.同じ調査でも,文献を調べるのか,質問紙や面接をするのか,などのいろいろな手法があります.複数の手法を組み合わせる場合も多いでしょう.自分の研究テーマにもっとも適した手法を見つけてください.
- 主な参考文献(文献調査):
- 自分が取り組もうとしている研究テーマを扱った先行研究や関連研究を調べることも重要です.キーとなる文献があれば,それを元に自分の研究を進めることができます.
- 論文のアウトライン(章立て):
- この段階で一度,卒論のアウトラインも考えてみましょう.
- スケジュール:
- 卒論締め切りをにらんで,卒論提出に至るまでの計画を立てます.
研究テーマを決める際は,研究背景(問題点)や研究の意義,研究の取り組み方,文献調査まで考えておく必要があると思います.これらを考えずにテーマを決めても,そこから先の研究の具体化・詳細化ができなくなるでしょう.
研究方法
研究に取り組む方法,調査か実験か,あるいは他の方法をとるのか,それを検討するためには,どのような研究方法があるのかをあらかじめ知っておく必要があります.ここでは,『ユーザ工学入門 -使い勝手を考える・ISO 13407への具体的アプローチ-』(黒須他著,共立出版)と『人間工学ガイド-感性を科学する方法-』(福田忠彦監修,サイエンティスト社),『Understanding Your Users -A Practical guide to user requirements. Methods, Tools, and Techniques-』(C. Courage and K. Baxter, ELSEVIER)を元に説明します.
ユーザ分析とシステム評価の手法
『ユーザ工学入門』の2.2節「分析と評価の技術」の「本書で扱っている手法」を紹介します.
| 開発フェーズ | 用いられる手法 | 具体的な手法 |
|---|---|---|
| ユーザ分析 | ユーザ分析の方法1:ユーザの意見・態度を知る |
|
| ユーザ分析の方法2:ユーザの実世界を知る(フィールドワーク) |
|
|
| モデル化手法 |
|
|
| ユーザビリティ評価 | ユーザビリティテスティング(ユーザテスティング) | |
| ロギングツール | ||
| 心理学的実験法 | ||
| チェックリスト | ||
| インスペクション法(専門家が評価) |
|
|
| そのほかの手法 | ||
この表から,まずは下記を理解してください.
- (目的に合わせて)様々な手法がある.
- 「ユーザ分析」と「システム(のユーザビリティ)評価」に大きく分かれている.(ユーザ分析に分類されている手法を評価で使うこともある.)
- 質的評価と量的評価,客観的評価と主観的評価の手法がある.
各手法の詳細は,『ユーザ工学入門』を調べること.
問題発見とシステム評価
研究には,まず問題を発見する研究と,検討すべき問題がはじめから明らかになっている研究があります.上記の表で言うと,「ユーザ分析の方法1:ユーザの意見・態度を知る」と「ユーザ分析の方法2:ユーザの実世界を知る」に分類された手法の多くは問題発見に適しています.既知の問題を改善する研究などの場合は,「システム(のユーザビリティ)評価」に分類された手法を用いて,改善前と改善後のシステムを比較すればよいと思います.「ユーザ分析」に分類されている手法も,システム評価に使えます.
主観評価
『人間工学ガイド』は,人の感性を科学する手法に焦点を当てて,下記の手法が紹介されています.(図1.1.2「手法選択のフローチャート」から抜粋.)
- 官能(主観)評価法:ユーザの主観的な感じ方を定量的に評価したい
- マグニチュードエスティメーション(ME)法:物理量と心理量の関係を知りたい
- 正規化順位法:順番をつけて簡単に比較したい
- 一対比較法:順番をつけて細かく比較したい
- SD(Semantic Differential)法:あるものについてのユーザの印象を知りたい
- 多覚的評価法:ユーザの振る舞いを客観的・定量的に評価したい
- 動作・行動分析:
- サーブリック法
- ワークサンプル法
- 眼球運動分析:
- FreeViewを用いた眼球運動分析法
- EMR-8Bを用いた眼球運動分析法
- 動作・行動分析:
- 複合評価法:いろいろな種類のデータを客観的に扱いたい
- プロトコル分析法
- シークエンス行動表記法
官能(主観)評価法は,ユーザ評価の際にとても有用です.ここで紹介されている4手法を勉強して適切に用いれば,ユーザの好みなどの主観を客観的・定量的に評価し,好みの順番をつけたり,その差が優位かどうかを検定したりできます.
各手法の詳細は,『人間工学ガイド』を調べること.実験の組み立て方からExcelで分析する方法まで,現場で必須の知識が詳細に紹介されているので,予備知識がなくてもこれらの手法を利用できますよ.
ユーザニーズの調査と分析
『Understanding Your Users』は,ユーザ要求を調査・分析するための手法を,企業の現場などですぐに適用できるように実践的(Quick and dirtyとも言う)に紹介しています.この本の「PART 3. The Methods」から,Interview(面接法)とSurvey(質問紙)を取り上げて,これらの調査を行う際の注意点をまとめます.
執筆中
分析
調査や実験で得たデータはそのままでは何も語ってくれません.正しい方法で分析してはじめて,個人差などの多様性や統計的なばらつきを超えた差があるのかどうかを評価できます.
執筆中
論文とは何か?
研究が軌道に乗ったら,論文にまとめる作業が必要です.以下,論文の書き方を説明します.
論文は感想文ではありません.論文とは,著者の考えを,筋道を立てて論理的に主張する文章です.論文執筆とは,自分の頭の中に内在しているモヤモヤした考えやアイデアを,論理的に再検討して(つまり,何度も考えて)結晶化させ,文章の形にまとめあげる作業です.(したがって卒論執筆は,慣れていない人には時間がかかり,頭を使うつらい作業になります.)
私の場合,私が感じる問題意識が研究の元になっています.その問題意識(たとえば,ここが問題ではないかと思うから詳しく調べてみよう,この問題を解決する手法を提案しよう,これは本当に問題なのかどうか確認しよう,など)が動機となって研究がはじまり,いろいろ調べていく中で,明確な主張(著者の考え)が固まるのではないかと思います.
したがって,論文には,著者の問題意識(問題提起)と著者の考え,「主題(テーマ)」,があります.そして論文は,主題に対する著者の主張を軸に展開していきます.問題意識を感じるためには,視野を広く持ってあれこれ調べたり考えたり,或いは小研究をしたりしてみる必要があります.そういう活動の中から,論文の主題(研究テーマ)が明確になっていきます.この,テーマを決める作業は,卒論執筆全体の中で,まず最初に重要なステップになります.ここに失敗すると,いざ論文を書こうとしてもどうにも書けないという事態に陥ります.:-)
次に,その主題を元に論文が展開していくわけですが,一般的に論文は,「問い,検討,答え」の大構造(と,「問いとそれに対する答え」という小構造)を持っています.
- 問い(問題提起):
- 「序論」或いは「はじめに」(Introduction)として,その論文が扱う問い(何が問題なのか)を示し,また,それを取り上げた理由を説明したり,論じる必要性を読者にわかるように説明したりする.ここに失敗すると,その論文の重要性がわからないので,読んでもらえなくなる.
- 検討(問題提起にどう対応したのか):
- ここが論文の本文となります.複数の章に分かれて,論文の大半を占めるはずです.ここでは,問いとそれに対する答えの形で論理が展開していくかもしれません.
- 答え(問題検討の結果):
- 論文の「おわりに」又は「結論」(Summary,Concluding Remarks)の章に相当します.
この基本構造以外に,論文の「表題(Title)」と「概略(Abstract)」が,論文の頭に置かれます.
- 表題:
- 読者は表題を見て論文の内容を想像し,論文を読むかどうかを決めます.ですから表題は,論文の内容を簡潔かつ的確に示さなければなりません.
- 概略:
- 表題を見て関心を持った読者は,論文本文を読む前に,概略を読んでその論文をじっくり読むかどうかを決めます.ですから概略は,「問い,検討,答え」全部を含んだ,その論文の内容の要約を書く必要があります.概略と序論は異なる役目を果たしていることに注意してください.序論は,読者を論文に引き込むための文章です.概略は,論文全体の要約です.
卒論の第一読者は,卒論を審査する教員です.卒論やレポートの場合は,学生が基礎知識を身につけていることを示すために,教員がすでに知っていることでも,要領よくまとめて書く必要がある場合もあります.
論文作成,つまり研究のプロセス
前章からわかるように,論文執筆に取り掛かる前に,研究をする必要があります.:-)
テーマ探しと概略決定
テーマを決めるためには,問題意識を持つ必要があります.では,どうやって問題意識が生まれるのでしょうか?授業やゼミで見聞きしたことが起点になることもあれば,自分で問題を見つける人もいると思います.
文献などの諸資料を読み漁ることでテーマを探すこともできます.テーマがみつからないひとは,まず資料漁りから取り掛かるのがよいと思います.どんな資料があるかは,OPACなどの検索システムで検索すればたくさん見つかりますし,キーとなるような重要な文献は教員が教えてくれます.その資料を読んでみて,その資料に載っていた参考文献を読んでみたり,関連テーマの資料を検索してみたり,関連テーマの学会や研究会の予稿集や論文集を読んでみるのがよいと思います.いきなり論文を読むのは難しいと思うので,予稿集(ヒューマンインターフェース学会や福祉情報工学研究会やヒューマンインターフェース研究会など)や書籍などの方が,最初は読みやすいかもしれません.
テーマ候補が見つかったら,そのテーマについてもう少し掘り下げて考えて見ましょう.自分の勝手な思い込みや無知によって,テーマになると勘違いしていないかを確認するためにも,友人や先生と話をすることも大事です.議論の過程を経て,テーマを一言で示す「論文題目」と,研究の概要(何を調べるのか,どんな問題を取り扱うのか,どういう結論を見込んでいるのか,どうやって調べるのか)が見えてくると思います.(この作業は,論文の「はじめに」の章の基礎となりますし,どんな研究をするのかの概略がここで決まります.)
テーマは,大きすぎないことが大事です.自分が取り扱える範囲まで,テーマを絞り込みましょう.「自分が取り扱えるテーマを絞り込む」というのは,案外難しい作業で,研究の途中でテーマの方向性が変わったり,テーマを絞り込んだりといった修正がよく行われます.卒論の場合は,卒論題目を5月に提出しなければならないので,テーマが修正される可能性を見越して,少し曖昧な題目にしておいた方が安全です.
文献調査
テーマ探しの段階で既に資料を漁っていると思いますが,研究テーマが確定したら,そのテーマに沿った文献を詳しく調べる必要があります.特に,学術論文など,著者以外の人が論文の価値を吟味した(つまり査読を受けた)文献をきちんと調べだしておきましょう.
この文献調査は,論文にまとめようと思っているテーマに関して,過去にどういう研究が行われたか,関連する研究にはどんなものがあるかなど,論文のテーマの位置付けをはっきりさせるためにも必要です.(この作業は,論文の「はじめに」や「関連研究」の章の基礎となります.)
文献調査をする際は,文献の出典情報をきちんと記録しておきましょう.この出典情報は,論文の引用文献を書くときに必要となります.
研究計画作成
卒論の場合,一年弱の期間で論文をまとめ上げる必要があります.締め切りに間に合わなくなる事態を避けるためには,論文作成プロセスのマイルストーンを押さえておく必要があります.
- テーマ探しと研究概略検討
- 文献調査と研究概略詳細化
- 5月末:卒論題目提出
- 論文のアウトラインを書いてみて,足りないものを見つけ出す.(たくさんあるはず)
- 研究.足りないところを補う.
- 10月末:初稿完成.他人に評価してもらう.
- 研究.足りないところを補う.
- 11月末:α版完成.
- 12月中旬:卒論提出.
卒論は,完成版を2回以上(初稿,α版,β版,リリースキャンディデート版,提出版)提出して,必ず一度以上書き直してください.文章を書き直し,足りないところを補うことで,見違えるほど質が向上します.
研究
卒論の難しさは,「卒論を書くための研究をする」ことと,「その研究を卒論という形で文章にまとめる」ことの2点にまとめられると思います.限られた時間で,限られた知識と技術と経験で,卒論にまとめるための研究をするのは,至難の技です.:-)これを成功させるためには,まず,良いテーマを選ぶことが大事です.次に,どう取り組むかのよい戦略を立てることが大事です.大きなテーマや曖昧なテーマを取り上げてしまうと後で困るので,小さくてもよいから明確で研究の意義がはっきりしたテーマを選び,どうやってその問題を解決するかの戦略を現実的に検討しておくことが大事です.(「テーマ探しと研究概略検討」から「文献調査と研究概略詳細化」が,これを行うプロセスです.)
渡辺ゼミの卒論では,世の中の問題を解決する何か(システム,物,サービス,手法)のプロトタイプを作って,その有効性を客観的に評価する作業をして欲しいと思っています.この作業は,論文とか研究とかいうより,プロジェクトに取り組むという考え方に近いかもしれません.
実行
研究の概要が決まって計画を立てたら,後は実行あるのみ.
実際に作業を進めると,うまくいかなかったり予定通り進まなかったりすることがたくさん出てくるはずです.修正を恐れてはいけません.修正する必要性を感じるということは,それだけ問題が明確になってきた証拠です.あらかじめ余裕がある計画を立てていても時間が足りなくなるはずなので,何が大事かを常に考えて,大事なことだけは押さえてください.(余り大事ではないことはできなくても構いません.大事なことをきちんと押さえていることが何よりも大切です.)
Plan, Do, Check, Actionの小サイクル(PDCA)を小回りよくまわし(Rapid Cycle),一気に前進しようとせずに早めにプロトタイプ(Rapid Prototyping)を作りましょう.
また,友人や先生と頻繁に意見を交わして議論しつづけることが大事です.論文は頭の中のもやもやを文章にする作業なので,自分自身と議論する必要がありますが,他人と議論することで自分自身との議論も促進されますよ.
卒論の構成例
以下の例は,コミュニケーション学科独自の仕様に沿うことより,一般的な体裁を述べることに重点をおいたので,コミュニケーション学科の卒論を作成する場合は,「コミュニケーション学科:卒業論文作成の手引き」を参照すること.
表題
「Webのアクセシビリティと楽しいユーザ体験を両立させるためには何が必要か」という問題意識をベースに卒論を書くとしたら,どんな標題がよいでしょう?「Webのアクセシビリティと楽しいユーザ体験を両立させるためには何が必要か」では長すぎますね.「Webのアクセシビリティと楽しいユーザ体験」だけでは曖昧すぎるかもしれませんが,このくらい曖昧にしておいた方が,これに関するあらゆることを扱えるのでよいかもしれません.卒論が完成していくなかでテーマが絞りこまれると思うので,その絞り込まれたテーマは,卒論の副題として書けばよいと思います.「Webのアクセシビリティと楽しいユーザ体験を構成する要素」なら,明確な題目になりますね.
標題を短くするためにも,(「何々の研究」のように)末尾に「の研究」をつける必要はありません.
要約(概要)
要約(概要)は,論文が完成した後に書きます.
表題を見て関心を持った読者が,論文本文を読む前に目を通すのが要約です.要約は,論文とは独立して読まれる,自己完結した文章であることに注意してください.要約は,字数制限(日本語の場合,200字から800字程度かな)に沿って,論文に何が書いてあるかを,「問い,検討,答え」の流れに沿ってまとめます.論文に書いてないことを要約に書いてはいけません.また,文献の参照や図表の使用も避けてください.
はじめに(序論)
その論文が扱う問題意識(問題提起)や研究の目的を示します.また,それを取り上げた理由や背景を説明したり,論じる必要性(研究の意義)を読者にわかるように説明したりします.また,その問題のうち,どの部分をどのように扱おうとするか(何をしようとしているのか)もここで述べます.
関連研究
「関連研究」を「はじめに」に含めても構いません.
今までにどのような研究がなされ,何がわかって何がわかっていないのか,この論文は今までの研究とどういう関連があって,それに対してどの部分の問題に取り組んでいるのか,どう取り組もうとしているのか,などを説明します.
研究・実験の方法
どういう手法で研究に取り組んだのかを説明します.
卒論のテーマによっては,この章が存在しない場合もあるかもしれません.この章を次の「本論(研究内容)」に統合しても構いません.
本論(研究内容)
実際は,実施した研究に合わせてこの部分は複数の章に分かれると思います.
(評価と)考察
研究結果を客観的に評価し考察をします.(結果に対する主観的な解釈や,自己批判をしてもよいです.)研究の過程でわかったことなどもここに書いてよいです.
今後の課題
今後の課題や新たな問題提起を書きます.
結論(おわりに,まとめ)
序論で提起した問題をどう解決したかを,ここでまとめます.
「(評価と)考察」と「今後の課題」を,「おわりに(Summaryというより,Concluding Remarks)」にまとめることもできます.
付録
本文に書くと論点がずれるが書いておく必要があることを,付録としてまとめる方法もあります.
参考文献
謝辞
卒論を完成させるにあたりお世話になった人の名前を,広く取り上げて謝意を示します.
論文作法
Wiritng技術
論文には凝った表現は不要です.3つのC(Clear明確な表現, Correct正しい内容, Concise簡潔な文章)を守ることを心がけてください.
また,論文は読者のために書くものです.読者がよく知っていることをくどくど書く必要はありません.自分の考えや,自分が成した仕事について3つのCを守って書いてください.これに関する詳細は,「パラグラフ・ライティング」や「テクニカル・ライティング」の本に書いてあります.
論文を書く際には,事実と意見を明確に区別しましょう.(感想を書いてはいけません)事実は客観的な真理ですが,意見は自分の主観的な考えです.事実を元に論理的に自分の意見を展開し,読者を説得する論文を書きたいものです.
引用の仕方
引用方法には,分野によって異なる多数のスタイルがあます.論文のテーマが属する分野で一般的に使用されるスタイルに沿って,あるいは指定されたスタイルで書くことが大事です.
図表の活用
図表は,それぞれの図表を関連する本文のそばに置く方が見やすいです.
論文評価のポイント
一般に論文は,「新規性(独自性),有効性,信頼性」の3要素で評価されます.
信頼性
「信頼性」に欠ける文章は,論文として評価されません.信頼性は,以下の項目を含みます.
- 研究の前提条件が明確であるか.
- 十分具体的に記述されているか.
- 主張の裏づけが客観的に示されているか.
- 根拠が説得力ある形で示されているか.
- 議論(論旨)の展開に誤りがないか.
- 誤字脱字,不明確な文章,規定の書式に沿っていないような文章は駄目.
卒論の場合,信頼性が最も重要なポイントではないでしょうか?
新規性と有効性
「新規性」と「有効性」は相反する性質がある場合もあるので,革新的な研究だけれども今どれだけ有効かは分からない論文もあれば,新規性には乏しいが堅実に適用できる研究成果が述べられている論文もあります.
卒論の場合,どちらかのポイントが少しでもあればよいと思います.
卒論独自の評価ポイント
卒論の場合,本人がわかって書いているかどうかというのも,基本的な要件になるかもしれません.:-)卒論の書式に則って書かれていることや,期限までに提出されたことも基本的要件です.
また,何が書いてあるかどうかがわからない論文は駄目です.
卒論は論文というより,自分が主体的に行った一連のプロセス(問題発見,問題解決への取り組み,卒論の形でまとめる)にどれだけ積極的に取り組んだかも評価のポイントになると思います.授業で学んだことは受け身の知識ですから,わかったつもりでいても身についていません.実際に自分で問題を考え,解決の方法を考えていく中ではじめて学習するのだと思います.「論文」だからこうしなければいけないと身構えて縮こまるよりも,失敗してもよいからどんと挑戦して欲しいものです.
論文の書き方の参考文献
レポートや論文の書き方
- 「論文・レポートのまとめ方」,古郡廷治著,ちくま新書122,700円.「図書館」
- 必読.
- 「レポートの組み立て方」,木下是雄,ちくま学芸文庫,780円.「図書館」
- 必読.木下さんは「理科系の作文技術」(中公新書)などで有名な方ですが,この本は理系文系に関係なく読める本です.
- 「『考える』ための小論文」,西・森下共著,ちくま新書110,720円.「図書館?」
- 文系の大学入試では小論文が課されることが多いです.この本は,「入試問題を素材として志向と書き方を訓練する」,「広く考えて書きたい人-独自性のある文章を目指したい人のための」(2つとも前書きより引用)本です.
- 「レポート・論文の書き方入門」,河野哲也著,慶應義塾大学出版会,1000円.「図書館」
- テキスト批評の練習法が面白い.
- 「論文の書き方」,清水幾多郎著,岩波新書.「図書館」
- 極めて有名な本.卒論に取り掛かる前に是非読んでください.「書く」という作業がいかに大変なものかがわかる.
- 「情報検索のスキル」,三輪眞木子著,中公新書1714,740円.「図書館」
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© 2005-2009, Takayuki Watanabe